全国高校生ワークショップ

ふくしま ましまし

福島産の米の全量全袋検査は必要?

「福島の事故を未来へ生かすために」 ~高校生・市民・科学者の出会い、語らい、そして未来へ~

2019年02月15日掲載

 東京、京都、そして福島の高校生達が一堂に会し、このセンシティブなテーマについて語り合った。

 11月24日、京都。

 

 

 日本物理学界の重鎮・坂東昌子先生(※1) が主催する「市民と科学者の放射線コミュニケーションネットワーク」(科学者と市民たちが交流し、理解を深めあうことを目的としたプロジェクト)

 

 活動のフィナーレを飾る報告会の中で、このディスカッションは開催された。

 

 参加した生徒たちは、放射線に関する基礎的な教育を受け、実際に身の回りの線量を測定するなどして、感覚的に放射線を理解できるようになった面々であり、なおかつ、みずから福島と放射線の問題に積極的に挑もうとする若者たちである。

 

 中には、以前ご紹介した「BER2018高校生スペシャルセッション」に参加した生徒たちもいる。

 

 

 ディスカッションに移る前に、彼らの活動の成果の一部をご覧いただきたい。

 

 

 


※1 NPO法人あいんしゅたいん理事長 京大湯川研究室出身の物理学者、日本物理学会会長も務めた

※各写真をクリックすると拡大されます

 

     

 

 

      

 彼ら一人一人が福島を取り巻く状況に真摯に向き合い、放射線や原子力、それらを取り巻く社会の動きについて学びを深めてきた。様々な問題について議論し、多様な価値観に触れてきた。

 

 そして今回、議論を仕切る角山雄一先生(2)が、生徒たちに投げかけるテーマはこちらである。

 

 

 

 「福島産の米の全量全袋検査は必要?」

 

 

 

 2012年4月1日、食品衛生法の規定に基づく放射性物質の基準値が設定され、玄米を含む一般食品の基準値は100Bq/kgとされた。

 具体的な基準値の設定としては、EUの1250Bq/kg、アメリカの1200Bq/kgに比べ、はるかに厳しいものとなっている。

 

 福島の米については、消費者の信頼を取り戻すために、早場米が収穫される同8月下旬から年末にかけて、全量全袋検査を行うこととなった。検査で基準値を超えたものは、2012年産で71点(全体の0.0007%)であったものの、2013年産で28点(同0.0002%)、2014年産においては2点(同0.00002%)と減少を続け、2015年以降、基準値超えは検出されていない。

 

参考:全量全袋検査の検査結果-福島県ホームページ

 

 

 しかしながら、その後も全量全袋検査は継続して行われている。 検査には年間約60億円もの費用がかかっている。

 

 


※2 京都大学放射線同位元素総合センター助教 放射線を学ぶカードゲーム「ラドラボ」生みの親

 この問題について、高校生たちはどのように感じているのだろうか?

 

 

「基準値超え0がずっと続いているから、食べてもいいんじゃないかと個人的に思う。だけど、『子供に食べさせるのが不安』という人がいそう」

 

 

「検査がまだ続いているのは、先入観を持つ人がたくさんいるということ。福島産は危険だと考える人が多い」

 

 

「安全を示す数値が出ていても、それを信じられない人がいる。それは仕方ない」

 

 

「検査を続けていけば安心感があるだろうが、『検査をしないといけないほど危険』だと捉える人もいるのではないか?」

 

 

「続けていた検査を急にやめるのは、不安に感じる人がいるのでよくないかもしれない。しかし、検査対象は全袋でなくてもよいのでは」

 

 

「自分は福島産のものに不信感を持っていた。しかしデータを見ると大丈夫だと感じる。ただみんな知らないだけではないだろうか。数字を見て知れば安心できるはず」

 

 

 

 様々な意見が飛び交うなか、印象的であったのは、生徒たちが自らの視点のみではなく、異なる立場の人々が「どう感じている」のか、「どう考える」のかということまで想像力を働かせ、多角的に理解しようとする姿勢であった。「これが正しい」、「それは間違っている」を決めつけるのではなく、様々な切り口から、このテーマに取り組んでいる。

 

 角山先生が続けて生徒たちに問いかける。

 

「それでは、ボクらは実際になにができるだろうか? なにをすべきだろうか?」

 

 いっせいに手が上がり、彼らは順々に自らの意見を述べる。

 

 

「福島産の食品が安全だと信じられない人が多いが、そのような人に対しては、個々が信じられる情報源から答えを与えられることが必要」

 

 

「親が福島産食品を食べないと、子供も食べない。家族や周辺の人も食べなくなる。その連鎖を断ち切るために、安全の根拠となるデータを示すための検査は必要」

 

 

「数値を示しても、基準そのものの意味がわからないと意味がない。検査制度や安全基準などを合わせて説明し、消費者に理解してもらう必要がある」

 

 

「今の子どもはSNSを使えるので、ハッシュタグなどをうまく用いて、SNS上で若年層をターゲットに情報を発信していくべき」

 

 

「SNSで発信するのもいいが、過剰に宣伝したりすることで常に意識されるのはよくない。過剰な宣伝は逆効果になりうる」

 

 

「消費者は数字を細かく見ておらず、実際には、周りの人の言うことやイメージで購入を決める。影響力のある人がPRするなどしたほうが、効果的だと思う」

 

 

「きっぱり検査をやめるべき。今までのデータを見ると、基準値以上の数字が出ることは考えられない。少しでも無駄なお金をかける必要はない」

 

 

「無作為抽出(※3) をすれば、60億円のコストは大きくカットできるはず。『検査をやってます』という姿勢を見せることも大事なのでは」

 

 

「福島独自のブランド米を作って、ブランド力を高めることで、福島県産というイメージをあえて弱くする」

※あさか舞い、牧場のしずく、いろいろ米、天栄米、天のつぶ、氏郷、紹紫黒米など福島には多くのブランド米があります。

 

 

「検査に期限をつけるべきだった。期限がないのでいつまでやればいいのかわからない。今さらやめることはできないのでは」

 

 

「原爆が落ちた広島でも、今や『広島の牡蠣』は有名。時間がたつことで、いつか風評被害も消えるはず」

 

 

「基準値超えのコメを食べるとどうなるのか考えるべき。不安に思う気持ちを無視すべきでない」

 

 

「福島産米が危ないと叫ぶ人をゼロにすることは不可能であり、そうする必要はない。不安に思う人を減らすためには、検査し続けることも大事だろうが、それには終わりがない。ある程度割り切らないといけない。しかし、検査をしている事実があることで、危険性を認めている気がする。これは本当に難しい」

 

 

 

 では、あなたの意見は?

 

 

 


※3 調査対象の全体から調査対象となる標本を無作為に抽出する行為のこと。標本調査の基本となる手法。

 

 

photo & text: 山田敬