やーっとここまで来たんですよ。

岡部タカ子さん
大熊町こぼし会

2017年11月16日掲載

起き上がり小法師(こぼし)は、福島県会津地方に古くから伝わる郷土玩具だ。会津若松市の仮設住宅などに暮らす大熊町の人たちは、「大熊町こぼし会」を結成し、西会津の工房や会津若松市の協力を得て、大熊町のキャラクターであるおおちゃんをモチーフにした「おおちゃんこぼし」を制作している。紙でできた真っ黒な小法師に、それはそれは見事に、絵付けしていく。
 

喜んでもらいながら、自分も楽しんでる。
自分のためなんですよね(笑)

岡部タカ子さん:

手先は多分器用なんだろうけども、でもあたしホントに学生の頃図画は1と2しかもらったことないんです(笑) みんなで練習しましたよぉ。練習しないと描けないですもん。だけど毎回おんなじ物は描けないんですよ。腕が悪いから、おんなじものにはならないんです(笑)
役場からのボランティア募集に応じたんです。描いてみないかって。最初は先生に来ていただいて、教えてもらって。最初は平面の紙に描いて練習したんです。顔描いたり魚描いたり。それでやーっとここまで来たとこ。ここまでやっと来たんですよ。

岡部さん:

買っていただく人のためにも、きちんとしたモノを作らないと。せっかく買っていただいて、「なにこの顔」って言われるよりも、ちゃんとしたモノを作りたいというのがあたしらの思いです。
職人さんみたい? 職人になるにはもう10年くらいやんなきゃ(笑)
なにかできるっていうことは、やっぱいいですよね。うちでぼうっとしていたら、今頃ボケてますよ。認知症になって徘徊してるかもしんない(笑)
避難した時に、「やることがない」っつうツラさがありました。やることがあるっつうのは幸せですよ。仕事でもなんでも。喜んでもらいながら、自分も楽しんでる。自分のためなんですよね(笑)

2015年2月から始めたそうだが、とてもそうとは思えない見事な筆さばきだ。「ひとりで黙々描いたんでは、やっぱ描けないから。みんなでこうやって話しながら、ウチ(ご主人)の悪口言ってみたり、情報交換したり、みんなに悩み聞いてもらってね。それがあっからできるんです(笑)」と岡部さんは笑う。

離れたら思い出すもんだなぁ(笑)

岡部さん:

大熊町のアイドルは、おおちゃん、くうちゃん、まあちゃん… なんだっけあと一人? あと一人いるよね? 三人だっけ? 
――「それはもう大熊町のかたでしたらどなたでもご存知の?」

  • 鈴木美幸さん:いやあ、どなたでも知ってはいねぇ(笑)鈴木美幸さん:いやあ、どなたでも知ってはいねぇ(笑)
  • 岡部さん:いや、知ってんだろぅ~岡部さん:いや、知ってんだろぅ~
  • 鈴木さん:知らない。そんなにいるなんて。おおちゃん、くうちゃんならまだわかるけど。(笑)鈴木さん:知らない。そんなにいるなんて。おおちゃん、くうちゃんならまだわかるけど。(笑)
  • 竹内夏江さん:まあちゃんなんて最近だよ。出てきたのは。こどもの。(笑)竹内夏江さん:まあちゃんなんて最近だよ。出てきたのは。こどもの。(笑)
  • 岡部さん:そうそう、こどもっぽいの。帽子かぶってね。大熊町の看板に描いてあったんだから、たいがい知ってると思うけど…岡部さん:そうそう、こどもっぽいの。帽子かぶってね。大熊町の看板に描いてあったんだから、たいがい知ってると思うけど…
  • 鈴木さん:そういえばこどもいたね。看板に…そう言われればそうだ。鈴木さん:そういえばこどもいたね。看板に…そう言われればそうだ。
  • 岡部さん:そうだよ。だからみんな知ってるはずだあよ。岡部さん:そうだよ。だからみんな知ってるはずだあよ。
  • 鈴木さん:むこういた時はそんなもん気づきもしなかったんだが、離れたら思い出すもんだなぁ(笑)鈴木さん:むこういた時はそんなもん気づきもしなかったんだが、離れたら思い出すもんだなぁ(笑)
  • 岡部さん:やっぱ離れたから懐かしくもなるし、愛着もわいてくる。岡部さん:やっぱ離れたから懐かしくもなるし、愛着もわいてくる。
  • 左が「おおちゃん」。
    帽子をかぶっているのは「くうちゃん」。
  • 残念ながら認知度の低い「まあちゃん」


岡部さん:おおちゃんのぬいぐるみは見ましたか?着ぐるみの。長靴みたいな靴を履くんですよ。鮭持って。それが「ふるさと祭り」の時、ころんじゃったみたいで、雨降ってたからどろんこになったみたい(笑) 起き上がりこぼしなのに、転んだら起き上がれないんですよ(笑) どろんこのとこでコロんこコロんこ転がっちゃったみたい

イノシシはね、ビール飲むの、ビール。

岡部さん:

大熊に帰ったか? 帰ってきました、先日ね。 特別宿泊? 今はまだしてないですよ。うち、壊れてるから。イノシシが勝手口のドアをぶち抜いて中に入って。今まで壊さなかった冷蔵庫まで壊すんですよ。それこそ出てくるときにガムテープでぐるぐる巻いて、キチンとしてきたんだけど、全部イノシシが壊しました。
イノシシはね、ビール飲むの、ビール。牙で缶を突っついてギュッと潰すとビールが出るじゃないですか。うちに大きな箱3つくらいあったのに、みんなイノシシが潰して飲みましたよ。でもね、ウィスキーとか日本酒は飲めないの。ビンだから。
家の中は畳とか全然見えないです。ゴミだらけ! だから帰ってももうどうしょうもないから、行ってもしょうがなくなりました。イノシシはそんな悪いことするんですよ。
イノシシは増えてっからね。ウリ坊産んだって、何匹も産むから。でもほんと、自分ちに入られるとは思いませんでした。今までは入んなかったんです。6月に行ったときには入ってないんだけど、11月に行ったらもう入られて。イノシシも増えすぎて食べるものなくなったのかな。

(岡部さん)朝10時から午後の3時か4時くらいまで描いてます。夢中になって5時頃、役場の職員と一緒に帰るときもあります。「戸を締められる~」と言って慌てて帰る時もあります(笑) でもね、昼休みもきっちり取って、お喋りしてます。それも楽しみで。

  • 小山和子さん:米なんかみんな捨てちゃったからね。ネズミの餌になっちゃいますから。田んぼに持って行って、玄米はみんな捨てました。どうせ食品は持ち出し禁止だから。

    小山和子さん:

    米なんかみんな捨てちゃったからね。ネズミの餌になっちゃいますから。田んぼに持って行って、玄米はみんな捨てました。どうせ食品は持ち出し禁止だから。

岡部さん:

ネズミはおりこうさんだよ、ペットボトルはね、下の方をかじるんですよ。そこからチュウチュウと(笑)
泥棒さんも入っからね。泥棒さん、窓の鍵穴の周りをまぁるくカットして、そこから開けて入って、ちゃんと玄関から出ていきますよ。玄関開けっ放しにして。だからあたし「開けたら閉めてください」って書いて来たの。いいものないと思ったら閉めてもらえればネズミも入らないから。鍵穴の破いたところにも「開けたら閉めてください」って書いてきました。なんの抵抗もできないもの、それくらいの抵抗するしかないですよ(笑)

鈴木さん:

やっぱみんな、生活するのに頭いっぱいになってんじゃない?

岡部さん:

ハクビシンは大威張りで家の中に住むから困るんだよねぇ。洋服全部落として、その洋服の上さ寝起きしてるんだよね。頭いいよね。それがね、トイレを一箇所にするんだね。その家族っつーか、全員が一箇所に。
あたし「放射能なんて怖くない」って言ってるの。「動物のバイキンの方がもっと怖い」って。あれだけの動物に入られると、それの方が恐いですよ。放射能どころじゃない、放射能はもう少なくなったから。(笑)
 


(岡部さん)絵付けのコツ? コツってなんだろねぇ? みんなに可愛がってもらえるように、と思いながら描いてます。それこそお嫁に出すのとおんなじだよね(笑) 綺麗にして、お嫁に出してやるんです。ヨボヨボになってぇ、目も見えなくなってぇ、認知症になったらもうできないけど、認知症になんないうちはやりたいと思ってます(笑)

(本記事は、2017年1月20日に公開されたものを再レイアウトしたものです。 )

photo & text: 石井敬之